
こんにちは。マネージャー投稿枠の週ということで、私が個人的に好きで仕事上のマネジメントにも役立つ便利な考え方だと思っている航空業界の安全思想について、雑談がてら書いてみようと思います。
- 歴史を変えた1977年の大事故
- フラットに「NO」と言える空気は、チームの安全装置
- 「誰が悪いか」ではなく「なぜ仕組みが防げなかったか」
- インシデントから「再発防止策」を導くプロセスの設計
- 個人でミスをして、深く落ち込んでしまう人へ
- 完璧な人間を目指すより、ミスをカバーし合える仕組みを
- おわりに
歴史を変えた1977年の大事故
航空業界のマネジメントを語る上で、外せない歴史的な転換点があります。それが1977年に起きた「テネリフェ空港衝突事故」です。濃霧の滑走路で2機のジャンボ機が衝突し、583名が亡くなるという航空史上最大の惨事でした。
この事故を境に、航空業界のマネジメントは180度変わりました。
- 事故の前:機長の権威が絶対の超トップダウン社会 当時は「ベテラン機長=絶対的な正解」という空気が強くありました。事故当時も、機長の「離陸する」という判断に対し、副操縦士や航空機関士は「まだ他機が滑走路にいるのでは?」と疑問を感じていました。しかし、機長の権威を恐れて強く意見できず、結果として悲劇を防げませんでした。
- 事故の後:一人の優秀なリーダーに依存する危険性の猛省 業界は「どれだけ優秀な人間でも間違える。トップダウンはリスクを高める」と気づきました。ここから、役職に関わらず全員でエラーを指摘し合う「CRM(クルー・リソース・マネジメント)」という思想が生まれ、航空機の事故率は劇的に低下することになります。
フラットに「NO」と言える空気は、チームの安全装置
このテネリフェ空港の教訓は、現代のあらゆるチーム関係にも全く同じことが言えると思っています。
リーダーとメンバーという関係において、「上司が言うことだから」「先輩が決めたことだから」とメンバーが忖度(そんたく)してしまうチームは、重大なミスやリスクを見逃す可能性が跳ね上がります。
役職は上下関係ではなく、ただの「役割」にすぎません。
メンバーから「それ、本当に大丈夫ですか?」「見落としありませんか?」とフラットに言ってもらえる空気を作ること。それは単なる「仲良しクラブ」ではなく、チームや成果物を重大なトラブルから守るための、極めて合理的な「安全装置」として機能します。
「誰が悪いか」ではなく「なぜ仕組みが防げなかったか」
航空業界のもう一つの特筆すべき特徴が、トラブルやミスが起きた時に「犯人探し(Blame)をしない」という徹底した姿勢です。
ブラックボックスを解析して暴くのは、「誰がレバーを引き間違えたか」ではなく、「なぜそのレバーは引き間違えやすい形状をしていたのか」 「なぜ二重のチェックをすり抜けてしまったのか」 というシステムの欠陥です。
これはソフトウェア開発の現場でも、他のどんなビジネスの現場でも全く同じです。ミスをしてしまった個人を責めるのは、理にかなっていません。
責めるべきは、その一つのミス、その一つの勘違いで、そのまま致命的なエラーに繋がってしまう「仕組み」のほうです。
「人間はミスをする生き物」だからこそ、ミスをした個人を責めるのではなく、そのミスを許容し、大きなエラーに繋げないシステムやプロセスをチーム全体で育てていくことが大切です。
インシデントから「再発防止策」を導くプロセスの設計
では、具体的にどのようにして「ミスをエラーに繋げない仕組み」を現場に落とし込んでいくのか。航空業界が徹底している「プロセス設計」は、日々のチーム運営に以下のように応用できます。
ミスを罪に問わない「非難しない文化(Just Culture)」
航空業界には、ヒヤリハットやインシデント(事故の一歩手前の事象)を自己報告した場合、故意の規律違反を除いて、原則として処罰の対象にしないという厳格なルールがあります。「怒られるかも」と隠蔽されることが、将来の重大事故につながる一番のパラドックスだと知っているからです。
そしてこの原則は、小さなヒヤリハットだけでなく、たとえ大きな損失や致命的な事象(事故)に繋がってしまっていたとしても変わりません。
悪意のない「うっかりミス(過失)」であるならば、原因究明のあとに後出しでペナルティを科されるようなことは一切なく、最初から最後まで「おとがめなし」になります。個人の責任を追及することよりも、「なぜ起きたのか」という真実を隠さず全員で共有することのほうが、未来の命やプロダクトを救うために圧倒的に価値があると考えられているからです。
ミスを責めるアプローチは、短期的には恐怖による緊張感を生むように見えますが、長期的には「怒られたくないからミスを隠そう」という隠蔽体質を生むだけで、組織にとってはデメリットしかありません。
どんな現場でも同じです。トラブルが起きたとき、あるいはミスをしてしまったときに、最初にかけるべき言葉は「なんでそんなことしたの?」ではありません。
「早く報告してくれてありがとう。助かったよ」
という受容のスタンスです。大きなミスほど、報告することが「チームへの最大の貢献」になるように空気感を設計しないと、トラブルの本質的な原因はどんどん地下に潜っていってしまいます。
「人」ではなく「システム(構造)」に起因するアクションアイテムを作る
航空業界の事故調査では、「パイロットの確認不足」で終わらせることは絶対にありません。「なぜ確認を怠ったのか?」「直前にアラートが多くて認知負荷が高かったから」「なぜ認知負荷が高かったのか?」「UIの配置が複雑だったから」……と、人間の心理やシステムの構造の真因(Root Cause)に辿り着くまで「なぜ」を繰り返します。
トラブルの振り返りにおいては、「人に依存する対策」は本質的ではありません。
| 対策の方向性 | 具体例 | 特徴 |
|---|---|---|
| × 避けるべき対策 | 「今後は気をつけます」 「手順書をトリプルチェックします」 |
人間は疲れるし、慣れるので、いつか必ずまた間違えます。 |
| ◯ 目指すべき対策 | 「間違えやすいフローをシステムで制限する」 「自動でチェックがかかる仕組みを導入する」 |
仕組みでガードするため、誰がやっても二度と再発しません。 |
「誰がやっても二度と再発しない状態」をどう作るか、その手段を導き出すための問いを、チームで一緒に考えていくプロセスが重要です。
個人でミスをして、深く落ち込んでしまう人へ
ここまで組織の仕組みについて書いてきましたが、この「人を責めずに仕組みをアップデートする」という考え方は、自分自身のミスとの向き合い方としてもものすごく有効です。
真面目な人ほど、何かミスをしたときに「自分がドジだからだ」「注意力が足りないからだ」と、自分の性格や能力のせいにして落ち込んでしまいがちです。
しかし、航空業界の思想を自分自身にスライドさせてみてください。
「私がダメなんだ」と自分を責める必要は全くありません。落ち込むエネルギーを1ミリでも残しているなら、それを「自分をガードするための仕組みづくり」に使いましょう。
- スマホの置き忘れが多いなら、自分の注意力を鍛えるのではなく、スマートタグをつける。
- 大事なタスクを忘れてしまうなら、メモを頑張るのではなく、リマインダーをカレンダーに強制同期させる。
自分の意志の力や集中力なんて、その日の体調や寝不足であっさり崩壊します。「自分を信じず、仕組みを信じる」。ミスをした自分を優しく許し、自分のための『安全システム』をアップデートしていくきっかけにできたら、日々の生活はもっと生きやすくなるはずです。
完璧な人間を目指すより、ミスをカバーし合える仕組みを
組織において、ミスを一切しない「完璧なスーパーマン」を育てるよりも、「お互いのミスをカバーし合える、理にかなった優しい仕組み」を構築するほうが、結果としてチーム全体のベロシティ(開発速度)や成果の質を高めることに繋がります。
最後に付け加えたいのは、「仕組み化」は個人の成長を甘やかすものではない、ということです。
むしろ逆です。「自分が悪いんだ」という無駄な自己否定や言い訳に精神的なエネルギーを奪われないからこそ、人間は「じゃあ次どうする?」という本質的な技術の向上や、次の挑戦への成長に100%のエネルギーを集中させることができるようになります。人を責めない文化は、人を甘やかす文化ではなく、人が最も健全に、かつ最短で成長できる環境ではないでしょうか。
おわりに
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